不妊症と漢方
主に以下の5つのタイプに分けられますが、実際は2~3タイプが重なることもありますしこのタイプ以外の状態もあります。また最近は西洋医学の診断から漢方を判断することも多く、西洋医学と中医学のいいところをとって治療にあたることも多いです。体外受精や顕微授精をくり返す方であっても、最後は自然妊娠出来た方も多く、身体の根本から改善させる中医学の特徴といえると思います。
腎虚の不妊
「腎」は西洋医学でいう腎臓と少し異なり、泌尿器だけでなくホルモン系、カルシウム代謝、自律神経系、免疫、そして生殖器系も含まれます。この腎のパワーダウン、また先天的に腎の力が弱いタイプを「腎虚」と呼び、それによって起こる不妊状態が腎虚の不妊にあたります。一般的な壮年期から起こる「腎虚」よりも、より生殖能力に着目したとらえ方によるものと考えます。
症状としては、下腹部の冷え、性欲の減退、経血量が少なく色が淡い、月経周期の延長や無月経、足腰のだるさや痛みなどを伴います。「腎虚」の方は、女性なら冷え性で低温期が長く高温期が短いといった黄体機能不全タイプの方が多く見られ性腺軸の機能低下による不妊であることが多いと思われます。比較的35歳以上の方に多く見られます。このタイプは卵を作ろう、精子を作ろう、着床させようといった機能がパワーダウンしているわけですから、その機能をアップさせるようなものを服用するのがおすすめです。
また「腎」の中でも命の部分に関わる「腎精」を補うようなものを服用することが多くなると思います。動物性のものが多く、鹿の幼角である鹿茸(ろくじょう)や角化した鹿角(ろっかく)、亀の甲羅の裏の部分の亀板(きばん)などが配合されたものが「腎精」を補うものとなります。
生活としては「腎」をパワーダウンさせる夜更かしや運動不足に注意する必要があります。現代人の生活を考えるとまさに「腎虚」を助長しているものと思われます。
気血両虚の不妊
体のエネルギーである「気」。栄養成分である「血」。その両方が身体に充実していないタイプです。通常は胃腸が弱く虚弱体質で、「気」「血」が産生できないことにより卵子や精子を生成できないことにより起こります。また、女性の場合妊娠しようという身体の余裕もなく、自分の身体でいっぱいいっぱいになっている場合に起こると思われます。病院で原因不明となることが多いです。
症状としては、顔色が悪い、やせる、脱力感、頭のふらつき、めまい、経血の色が淡く量が少ない、月経周期の延長などが見られ、基本的に体力がなくだるい状態が続きます。
「気血両虚」の方は胃腸が弱いので消化器症状が現れることが多くなります。たくさん食べられない、食べた後だるく眠く体調が悪くなる、3食の前にお腹が空かず時間が来てるので食べている、食事を摂るたびに便意をもよおしトイレに行く、軟便、軟便と便秘をくり返すなどが見られます。また「血」が少なくなると中医学では「血虚」と呼ばれますが、西洋医学でいう「貧血」とは少し異なり、身体の乾燥、目の疲れ、口渇、不眠、多夢、経血の減少、動悸、精神不安などを起こします。
基本は胃腸を強くする漢方薬を服用しますが、「血虚」の状態により造血出来るような処方も服用します。朝鮮人参や茯苓、白朮などの「気」を補うものや、当帰、地黄、阿膠、枸杞子、酸棗仁などの「血」を補うものを服用します。
生活としてはまず胃腸を元気にさせるため、油脂類やショ糖(白砂糖)のような消化の悪いものを摂りすぎずなるべく体温以上のものを摂って消化器を冷やさないようにしないといけません。またよく噛んで消化を助けるのもよいでしょう。「血」を補える貝類やミネラル類、たんぱく質などを胃腸に負担がかからない程度に食べて、「血」を消耗する夜更かしやディスプレイの見過ぎには気を付けましょう。
陰虚血熱の不妊
身体の水分や物質的なものである「陰」。水分保持能力が落ちてしまうと「陰虚」という体質になってしまいます。厳密にいうと身体にとって有益で必要な水分が少ない状態です。「陰虚」になると身体の乾燥感が出て、相対的に熱が発生します。また物質が不足することにより身体が砂漠状態に近くなると考えてもよいでしょう。見かけ上の過亢進により元気な方も見られます。
症状としては、月経周期の短縮し経血が紅色で量が多いか、月経周期が延長し経血が暗色で量が少なくなる、頭のふらつき、口や咽の渇き、顔面紅潮、頬のほてり、午後になると手足がほてる、寝汗、耳鳴り、不眠、焦燥感などが見られます。
「陰虚」の方はもともと「血虚」の状態が先にあり、それが進んで熱化した状態にある方が多く胃腸が弱くエネルギー不足が根底に見られる場合が多くなります。しかし見かけ上はエネルギー不足には見えず、場合によってはパワフルに見えることもあります。また慢性病により身体の水分を傷つけていたり、夜勤などがありいつも夜更かしの生活が続いている方も「陰虚」の体質になることがあります。
処方としては身体の水分保持能力を上げるものを服用します。血熱が強ければ程度によって熱をとる(清熱)ものを併用します。基本的には「腎」の「陰」を補うものを服用しますので、卵の潤いを与え成長を促すことになります。また消化器官である「脾」の「陰」を補いエネルギー産生を促すことを基本とする場合もあります。
このタイプは潤いを損なう、また熱を発生させるのが良くないので、夜更かしなどによる乾燥を促す行為はなるべく避ける必要があります。早寝は「血」「陰」「腎」など不妊症にとって大切なものを作る行為といえるでしょう。食事としては香辛料などの熱を発生させるものは避けるのがよいでしょう。また汗をたくさんかくサウナや岩盤浴なども避けるべきです。
肝気欝結の不妊
いわゆるイライラタイプです。中医学では自律神経を調節する臓器が「肝」にあたり、ストレスなどで「肝」の働きがスムーズにいかなくなることにより「気」の流れが悪くなり臓器の動きがうまく働かなくなることによって起こります。「気」の流れが悪くなることを「気滞」といい、生殖器官の「気」や「血」の供給がスムーズにいかなくなると妊娠しにくくなってしまいます。
症状としては、月経周期や経血量が一定しない、経血が紫色で塊が混じる、月経痛、月経前に胸が張って痛む、いらいら、怒りっぽいなどが現れます。PMSと呼ばれる症状が起こりやすいタイプです。
「気滞」は不安定さを起こすことがよく見られ、その月経周期によって大きな変化が現れます。またそのときのストレスの大きさによって現れる症状が変わることもあります。子宮筋腫などの腫瘍は「気滞」から起こる血液の滞り「お血」(「お」はやまいだれに於)の塊と考えられ、「気」「血」の流れが大きく関わります。子宮内膜症なども「気滞」による「お血」が大きく関与すると考えられています。
「気」の流れを良くすることから考えるべき体質なので、まずは気持ちが楽になるような処方がおすすめのタイプです。薬味でいうと「柴胡」「薄荷」などの少し冷やして動きをスムーズにさせるものや「香附子」「木香」「陳皮」などの「気」を動かすようなものが入っている処方を服用します。
ストレスから避ける生活はなかなか難しいものです。ストレスを受けてしまう方はそれに対してストレスに負けない身体を作ることが大切です。「血」が少なくなると精神状態を安定させることが難しくなります。「血」を消耗させないように気を付ける必要があります。また運動などは「気」「血」の流れを促進させます。ストレスがかからない程度に楽しく運動するのが良いでしょう。逆に香辛料や刺激物はイライラを助長してしまうので、なるべく避けるのがよいでしょう。
痰湿の不妊
身体の老廃物である「痰湿」が溜まっているタイプです。普段から美食で肥満気味のタイプや胃腸が弱く老廃物を処理できないタイプは、身体に「痰湿」を溜め込んでしまい「陰」である水や精の流れがスムーズに行かなくなっています。それによりうまく生殖機能が働かなくなり、卵子や精子の発育も阻害されることになります。またPCOS(多嚢胞性卵巣症候群)もこのタイプと考えられます。
肥満の体型で、無月経あるいは月経不順、白い下り物が多い、多毛、めまい、動悸、無力感、むくみ、胸苦しい、摂食量が少ないなどが見られるタイプです。
「痰湿」は基本として老廃物なので、身体の様々な動きを阻害します。高コレステロールによる動脈硬化などや、高血糖なども「痰湿」によるものと考えてもいいでしょう。身体の水の流れも悪くなるので、身体の重だるさもともない動きが緩慢になってしまいます。身体にとって余分なものを取り除けないというタイプともいえるので、卵管に溜まってしまうと卵管閉塞になりますし、余分な卵を除去できなくなるとPCOSが発生するということになります。
対策としてまずは身体のヘドロ取りからです。主には「半夏」という薬味で「痰」を取り除くことが大切です。また「山査子」のような消化を助けるもので「痰湿」を普段から溜め込まないようにするのも大切です。「痰湿」は一度溜まると取り除くのがとても時間がかかります。根気よく服用するのが大切です。また胃腸が弱いタイプは胃腸を強くすることも大切です。
生活としてはまず食事の見直しから。極力油脂類、砂糖類は控えましょう。お腹いっぱいに食べるのもNG。アルコールの摂取も気を付けなければいけません。運動も大切なのは言うまでもありません。現代の日本人が不妊で悩んでいる方が多いのは、運動不足で飽食の時代によるものとも考えられるでしょう。